大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和60年(ネ)2004号 判決

控訴人

大山文夫こと

崔文澤

右訴訟代理人弁護士

杉永義光

早野貴文

荒木和男

近藤良紹

釜萢正孝

右訴訟復代理人弁護士

木村晋介

被控訴人

上中善太郎

右訴訟代理人弁護士

佐藤孝文

第三債務者

右事務管掌者

千葉地方裁判所・

千葉簡易裁判所

歳入歳出外出納官吏

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「原判決を取消す。控訴人と被控訴人間の千葉地方裁判所昭和五八年(ヨ)第一一〇号債権仮差押申請事件について同裁判所が同年三月一〇日なした仮差押決定を認可する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、控訴代理人において、「仮に、本件土地が控訴人と扶桑商事との共有であるとしても、本件建売住宅建設の事業計画については、控訴人が六五、扶桑商事が三五の割合で利益を分配する合意が成立していたのであるから、控訴人の共有持分の割合は一〇〇分の六五であるというべきである。また、仮に、控訴人は二分の一の共有持分を有するにすぎないものとしても、共有物の売却代金は持分の割合に応じた分割債権となるのであるから、控訴人は本件配当剰余金の二分の一の額について交付請求権を有するものであり、その金額について不当利得が成立するというべきである。」と述べ、被控訴代理人において、「(1) 控訴人の右主張は争う。(2) 本件の配当剰余金は控訴人の主張する六七二九万三四〇〇円ではなく、四七八四万八二五〇円であるところ、原判決主文第四項の仮執行宣言に基づき、右剰余金は昭和六〇年七月一日第三債務者から被控訴人に交付され、現在本件の被仮差押債権は存在しない。」と述べたほかは、原判決の事実摘示(添付の別紙請求債権目録、差押え債権目録、物件目録を含む。)と同一であるから、これを引用する

三  証拠関係〈省略〉

理由

一控訴人の本件債権仮差押申請の理由の骨子は、本件土地は実体上控訴人の所有(少なくとも共有)であるのにかかわらず、被控訴人の所有として競売手続が実行され、配当金等を控除した剰余金が被控訴人に交付されようとしており、もしこれが交付されると、被控訴人は、法律上の原因なく、控訴人の損失において利得することとなるので、この不当利得返還請求権を被保全権利として、被控訴人の第三債務者に対する剰余金交付請求権に対し仮差押えの執行を求めるというにある。

しかしながら、右申請理由によれば、控訴人主張の不当利得請求権なるものは、配当剰余金が被控訴人に交付されることによつて発生するものであるから、右不当利得返還請求権を被保全債権として本件配当剰余金交付請求権を仮に差し押えるというのは、結局、被保全債権の存在なしに仮差押えを認めることに帰し、許されないものといわなければならない。すなわち、将来の請求権であつても被保全債権としての適格を有することはいうまでもないところではあるけれども、本件においては、控訴人が本件配当剰余金交付請求権に対して仮差押えの執行をしている限り、被控訴人が不当な利得をえたとすべきいわれはなく、控訴人が本案訴訟を提起しても請求認容の判断をうることができないことは明らかであるといわなければならないからである(もし、控訴人の主張に即して、その請求権を保全し、満足をうる手段を考えるとするならば、控訴人としては、本件配当剰余金の被控訴人への交付を差し止める旨の仮処分命令をえたうえ、控訴人において本件配当剰余金の交付を受けるべき地位にあることの確認を求める本訴を提起するのが適切な方法というべきであろう。)。

もっとも、〈証拠〉によれば、本件土地の売得金の剰余金の全額である四七八四万八二五〇円が昭和六〇年七月一日第三債務者から被控訴人に交付されたことが認められるのであるから、控訴人の主張に即して考えるならば、右金額につき被控訴人の不当利得が成立するということになるのであるが、右認定事実によれば、本件において仮に差し押えるべき債権は既に存在しないとするのほかはないから、本件仮差押えの申請はこの点からも失当というべきである。けだし、仮差押命令を発するに際しては被差押債権の存否については審理をしないのが原則ではあるが(民事執行法一四五条二項、一七八条五項)、本件のように、口頭弁論を開いて審理した結果、被差押債権の不存在が明らかとなつた場合についてまで仮差押命令を発すべきものとするのは、申請人にとつて利益のないことが明らかな裁判をなすべしとするものにほかならず、許されないものと解するのが相当であるからである。

二以上のとおりであつて、控訴人の本件仮差押申請はいずれにしても却下を免れないものであり、結論においてこれと同旨の原判決は相当というべく、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官髙野耕一 裁判官野田宏 裁判官南 新吾)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例